2011年 10月 23日
宇宙に還る生物 |
ニューヨークにいる間行けなかった、入院中の97歳の伯父のお見舞いに行ってきた。小さい頃はしょっちゅう彼の家に遊びに行っていたが、大人になってからはまともに会っていない。
どこかが特別に悪いわけではないけど、もはや老衰だ。自力で動く筋肉はないし、食事もできずに管から栄養分を入れて、1日のほとんどは眠っている。かろうじて意識はあるが、小さな音を発するだけで、言葉は話せない。この状態で数年病院にいる。
私の中の伯父は、小さいときに会った記憶のまま。だから病室に入って10年以上ぶりに見た姿の、その変わりように驚いた。
「私の知っている伯父の面影がない」という驚きだけではない。それは・・・こういう言い方は不謹慎かもしれないけれど・・・伯父が人間に見えなかったのだ。
元気な頃の半分とも言えるくらい体は小さくなっている。でも、病的に痩せているというのでなく、一般の人間のプロポーションから変わってしまっているのだ。例えば顎は、歯がなく頬の肉もないので皮が張り付いたの状態で、脳のある頭の部分との大きさのバランスが異様。
そしてなぜか毛が落ちた肌は白くてツルツルで透き通るほど輝かしい。普通の大人はもっと日に焼けていたり血管が見えたり毛があるから、これまた見たことの無い肌だ。
生命のサインを感じない。でも実際は、管の栄養によって内臓は動いている。このようになった人間を見たことがないから、私の認知がついていかなかったのだろう、私には伯父が本当にこの世の人間や動物でなく、他の生物――宇宙人のように見えた。
声をかけても起きないので、私と私の両親は諦めて帰ろうとしたが、そのとき伯父の体の向きを変えるための二人のヘルパーさんがやってきた。彼らが布団をめくって向きを変えるとき、伯父の体に巻かれたおしめが見えた。
体が小さくて、大人の形をしていなくて、ピュアな肌をして、眠りこけていて、おしめをして・・・そうだ、今の伯父は、赤ちゃんにもそっくり!栄養を流す管はへその緒だ!
ベンジャミン・バトンは本当の話だ!伯父はまず赤ちゃんに還って、それからもっと以前の世界、宇宙へ行こうとしているのか!・・・私は真剣にそう思った。
でもそのあと、伯父は一瞬だけ人間に戻った。
深い深い眠りについていたのに、向きを変えた衝撃で目を覚ましたのだ。そして私と両親が顔を近づけて声をかけたら、じーっと見つめたあと、かすかに微笑んだのだ。
「わあ!わかってくれた!」
日頃世話をしている伯父の娘が、私たち以上に感動した。
「笑うなんてここ何ヶ月もなくて、こういう表情はもう見られないんだと思っていたわ!」
伯父が笑ったのは本当に一瞬で、その後また深い眠りに落ち、人間から宇宙人に戻った。
伯父が元気でいた頃がもう遠い遠い記憶の中だからか、死期迫る伯父を思っても哀しいとか辛いという感情は正直湧かなかった。それより、遭遇したことのない不思議な感覚が残った。人間が宇宙に還っていく、ということをごく自然に感じたのだ。
そして、「人間として生きている」というのはどこまでを言うのだろうとしばし考えた。伯父はまだ意識をすべて失っていないので、もちろんその間はわずかでも意思表示ができる。でもその意識もなくなったとき、伯父という独自の「個」は消えてしまう気がする。
それは私の意見であって、世の中には、意識がなくても、やはり肉体が生きている限り個であり、存在意義がある、という考えもある。
ここが「脳死問題」や「死ぬ権利」「尊厳死」について議論されるところなんだろう。
私は、管の栄養だけで内臓が動いているあの状態から伯父を解放してあげたいと思った。裏を返せば、私なら意識が無くなった時点で、もう延命はしたくないということだ。さらに厳密に言うと、その「選択をもてること」が、自分にとって尊いことだ。(ブログはLiving Will(生前遺書)の役割も果たすんだなあ!)
赤ちゃんが「あの世」から来たばかりの存在であると同じく、「あの世」にとても近いところにいる伯父。今頃何を想って眠りについているんだろう。
夢を見るのかな。
夢の世界が彼の「現実」になりつつあるのかな。
また姿を変えて「この世」に戻ってくるのかな。
そうしたらまた私に気づいてくれるのかな。
どこかが特別に悪いわけではないけど、もはや老衰だ。自力で動く筋肉はないし、食事もできずに管から栄養分を入れて、1日のほとんどは眠っている。かろうじて意識はあるが、小さな音を発するだけで、言葉は話せない。この状態で数年病院にいる。
私の中の伯父は、小さいときに会った記憶のまま。だから病室に入って10年以上ぶりに見た姿の、その変わりように驚いた。
「私の知っている伯父の面影がない」という驚きだけではない。それは・・・こういう言い方は不謹慎かもしれないけれど・・・伯父が人間に見えなかったのだ。
元気な頃の半分とも言えるくらい体は小さくなっている。でも、病的に痩せているというのでなく、一般の人間のプロポーションから変わってしまっているのだ。例えば顎は、歯がなく頬の肉もないので皮が張り付いたの状態で、脳のある頭の部分との大きさのバランスが異様。
そしてなぜか毛が落ちた肌は白くてツルツルで透き通るほど輝かしい。普通の大人はもっと日に焼けていたり血管が見えたり毛があるから、これまた見たことの無い肌だ。
生命のサインを感じない。でも実際は、管の栄養によって内臓は動いている。このようになった人間を見たことがないから、私の認知がついていかなかったのだろう、私には伯父が本当にこの世の人間や動物でなく、他の生物――宇宙人のように見えた。
声をかけても起きないので、私と私の両親は諦めて帰ろうとしたが、そのとき伯父の体の向きを変えるための二人のヘルパーさんがやってきた。彼らが布団をめくって向きを変えるとき、伯父の体に巻かれたおしめが見えた。
体が小さくて、大人の形をしていなくて、ピュアな肌をして、眠りこけていて、おしめをして・・・そうだ、今の伯父は、赤ちゃんにもそっくり!栄養を流す管はへその緒だ!
ベンジャミン・バトンは本当の話だ!伯父はまず赤ちゃんに還って、それからもっと以前の世界、宇宙へ行こうとしているのか!・・・私は真剣にそう思った。
でもそのあと、伯父は一瞬だけ人間に戻った。
深い深い眠りについていたのに、向きを変えた衝撃で目を覚ましたのだ。そして私と両親が顔を近づけて声をかけたら、じーっと見つめたあと、かすかに微笑んだのだ。
「わあ!わかってくれた!」
日頃世話をしている伯父の娘が、私たち以上に感動した。
「笑うなんてここ何ヶ月もなくて、こういう表情はもう見られないんだと思っていたわ!」
伯父が笑ったのは本当に一瞬で、その後また深い眠りに落ち、人間から宇宙人に戻った。
伯父が元気でいた頃がもう遠い遠い記憶の中だからか、死期迫る伯父を思っても哀しいとか辛いという感情は正直湧かなかった。それより、遭遇したことのない不思議な感覚が残った。人間が宇宙に還っていく、ということをごく自然に感じたのだ。
そして、「人間として生きている」というのはどこまでを言うのだろうとしばし考えた。伯父はまだ意識をすべて失っていないので、もちろんその間はわずかでも意思表示ができる。でもその意識もなくなったとき、伯父という独自の「個」は消えてしまう気がする。
それは私の意見であって、世の中には、意識がなくても、やはり肉体が生きている限り個であり、存在意義がある、という考えもある。
ここが「脳死問題」や「死ぬ権利」「尊厳死」について議論されるところなんだろう。
私は、管の栄養だけで内臓が動いているあの状態から伯父を解放してあげたいと思った。裏を返せば、私なら意識が無くなった時点で、もう延命はしたくないということだ。さらに厳密に言うと、その「選択をもてること」が、自分にとって尊いことだ。(ブログはLiving Will(生前遺書)の役割も果たすんだなあ!)
赤ちゃんが「あの世」から来たばかりの存在であると同じく、「あの世」にとても近いところにいる伯父。今頃何を想って眠りについているんだろう。
夢を見るのかな。
夢の世界が彼の「現実」になりつつあるのかな。
また姿を変えて「この世」に戻ってくるのかな。
そうしたらまた私に気づいてくれるのかな。
by gogo_sally_ny
| 2011-10-23 00:40
| Feelings